西内流、思考習慣。多角的な視点の身につけ方

前回は、「若手不足」という構造的な課題に直面する中小企業が、限られた予算で“採用の精度を高める”ためのヒントとして、データ活用の考え方を伺った。
(前回の記事はこちらから)
勘や経験に頼らず、“事実”に基づいて採用リスクを減らす。そのためには、目の前の情報をどの角度から読み解くか?「物事の見方」そのものを磨く必要がある。
そこで今回は続編として、企業が“良い意思決定”を行ううえで欠かせない「多角的な視点」をテーマに、西内啓氏に改めて話を伺った。
シリーズ累計55万部を突破したベストセラー『統計学が最強の学問である』の著者であり、現在は企業のデータ活用支援や分析ツール開発の最前線で活動する西内氏。
X(旧Twitter)では、「当たり前をズラす」独自の視点で社会現象を切り取るコメントが注目を集めている。
思い込みから自由になり、物事の“本質”を見抜くにはどうすればよいのか?その思考法を、組織づくりや人材育成にどう活かせるのか?今回のインタビューでは、一歩踏み込んで伺った。
“当たり前”をズラす視点――思考の起点はどこにあるのか
Xや著作を拝見していると、人が当たり前だと思っていることを別の角度から切るのが非常に印象的です。そうした“思い込みを外す力”は、どう身につくのでしょうか?
思い当たるのは、中学時代にあるお笑いコンビのトーク番組にハマったことですね。番組を録画して、ボケ担当がどう切り返すかを“クイズ化”。一時停止して自分で3案考えてから答え合わせする、というのを延々やっていました。
応募制の視聴者企画にも何度か送ったんですが、採用はされず(笑)。ただ、家での“正答率”はかなり上がっていきました。
この自己訓練で、ボケの“作り”を自分なりにセオリー化したんです。鍵は「知っている/知らない × 意識している/していない」の2×2構造です。
- 知っていて意識している:挨拶のような日常(「暑いですね」→「そうですね」)
- 知らないけど意識している:今気になっていることを学ぶ(勉強)
- 知らなくて意識していない:興味ゼロの領域
- 知っているけど意識していない:ここを言語化されると人は笑う
| 意識している | 意識していない | |
|---|---|---|
| 知っている | 挨拶のような日常 | ここを言語化されると人は笑う |
| 知らない | 今気になっていることを学ぶ(勉強) | 興味ゼロの領域 |
“忘れていたけど知っている”を可視化する。例えツッコミが響くのも同じ理屈です。誰もが“知っているが意識していない”構造を言い当てるから、笑いと納得が生まれるんです。
今の“切り口”の話、まさにデータ分析の発想に近いですね。インプットは何からされていますか?
そうですね。お笑いのセンスや勘だけじゃなく、切り口が立つと分析に落ちていきます。
インプットはお笑いや漫画が多いです。ビジネス書ももちろん読みますが、構造が整理されすぎていて、発想のばらつきを広げにくい。エンタメはバラバラの素材を自分で構造化する必要があるので、応用力の訓練になるんですよ。
思考を鍛えるには――抽象と具体を往復するトレーニング
思考を鍛えるおすすめのトレーニングを教えてください。
一番のトレーニングは、フレームワークを“引き出し”として持ち、目の前の事象にどれがハマるかを考える「抽象と具体の往復」です。
■ 抽象化
複数の事象から「共通の構造」を抜き出す力。
「結局これは何の話か?」を抽出すると、思い込みから解放される。
■ 具体化
抽象化した考えを、人が動けるようなディテールに落とす力。
「具体的にどうやるの?」まで降ろすことで、再現性が生まれる。
この往復運動の回転数が上がると、異なる領域のアイデア同士がつながり、逆に「ここはディテールで破綻している」と判断する目も育つ。
筋トレと同じで、外から“やらされ”ても身につきません。自分で「もっと面白い見方ができるのでは?」と能動的に取り組むことが大事です。
抽象化・批判的思考ができる人材は“育てる”より“見つけて守る”
社員を抽象化・批評的思考ができる人材に育てることは可能でしょうか?
可能ですが、もちろん全員が高いレベルでできるようになるわけではありません。
体感では20人に1人の割合で、抽象化・批評的思考が自然にできるタイプがいます。組織としては、このタイプを無理に“育てる”というよりは、見つけて“守る”ほうが現実的です。
日本の学校や職場では、最近こそ受け入れられつつありますが、少し前までは抽象化・批評的思考ができる人は、「余計なことを言う人」として“邪魔者扱い”されがちでした。性格の問題というより、誰も触れていないけれど実は重要なポイントに引き寄せられてしまうタイプなんです。でも、そういう人が少ないと、アイデアが出にくく、議論も広がらない。
だから、組織としては、そのようなユニークな視点を持つ人材を見つけたら守り、その能力を活かす体制を整えることが重要だと思います。
採用で見極めるには――“ワークサンプル”が最も信頼できる
採用で「思考できる人」を見抜くには、どうすればよいでしょうか?
ワークサンプルテストがおすすめです。
全く新しい問いを渡し、調べ物OKで「5ページ以内・所定フォーマット」といった制約を設け、短時間で企画を作ってもらう。コピペで逃げられない設計にすることがポイントです。
性格検査は“良く見せる回答”がいくらでもできてしまいます。ビッグファイブ程度で大まかに見るのはアリですが、それ以上過信するのは危険です。
ワークサンプルは「実際の仕事そのものを小さく切り出したテスト」なので、最も再現性が高い採用手法だと考えています。
“視点を変える力”が組織の意思決定を変える
“当たり前をズラす”という発想は、特別な才能ではなく、日々の思考習慣から生まれます。
一人ひとりが「知っているけど意識していないこと」に気づき、言語化し、共有できる―そんな環境が、組織全体の発想力を底上げします。
データ分析も同じです。感覚ではなく、定量的な裏づけをもとに考えることで、思考の幅は広がり、意思決定の質が変わります。個人の“勘”を組織の“知”に変えていく。そのための第一歩として、DataStalizeで多角的に考える力を鍛えてみてはいかがでしょうか。
西内啓氏がカリキュラムを考案・監修し、自ら講師も務めるデータ活用人材育成プログラムDataStalizeは、西内氏から、直接「課題設定」や「分析アプローチ」を学べるプログラムです。単なるツールの使い方ではなく、「明日から自社の課題をどう解くか」という実践的な思考プロセスを習得できます。
