中小企業こそ「データ」を使う|西内啓氏が語る、採用ミスマッチをなくす「事実」の見つけ方

売り手市場が続き、多くの中小企業が「若手が応募してこない」「採用してもすぐ辞めてしまう」という壁に直面している。少子化で採用母集団が減る中、大手企業に人気が集中し、求人広告に多額の費用を投じても応募が集まらない。
さらに深刻なのは、せっかく採用した人材が早期離職してしまう“ミスマッチ”の問題だ。採用費用、教育コスト、現場負担など、その損失は年間数百万円規模にのぼることも珍しくない。
限られた予算で、どうすれば“採用の精度を高める”ことができるのか。その一つのカギが「データ活用」である。
データといっても、大企業が行うビッグデータ分析のような難しい話ではない。自社にすでに存在する“事実”を拾い集め、それにもとづいて再現性のある採用基準をつくるだけで十分である。
では、中小企業は何から始めればよいのか?そのヒントを求めて、シリーズ累計55万部を突破したベストセラー『統計学が最強の学問である』の著者であり、ビジネスの現場でデータ活用支援を続ける西内啓氏に話を伺った。

なぜ若手採用が難しくなっているのか?

最近、「若い人が応募してこない」「採用してもすぐ辞めてしまう」という声を中小企業からよく聞きます。なぜ、ここまで採用が難しくなっているのでしょうか?

大きく言えば、少子化で採用母集団そのものが減っているのが最大の理由です。その中で大手企業や有名企業に人気が集中してしまうため、中小企業は最初の土俵にすら立ちにくい状況になっています。
ただ、ここで見過ごしてはいけないのが、「採用できないこと」以上に経営へのダメージが大きい「採用ミスマッチによるコスト」の問題です。
苦労して採用したのに「なんとなく合いそう」という感覚で入社が決まり、結果として早期離職してしまう。これには採用費用、研修コスト、そして業務がストップすることによる機会損失など、目に見えない莫大なコストがかかっています。

採用のミスマッチが起きる背景には何があるのでしょうか?

背景としてあるのは、採用が難しくなるほど現場に「焦り」が生まれることです。
応募が少ない状況が続くと、「とりあえず来てくれた人を逃したくない」という心理から、本来の基準を下げてしまう。あるいは、応募者がどんなタイプかをデータで確認せず、「雰囲気が良い」「なんとなく合いそう」という勘に頼って判断してしまう。こうした積み重ねが、結果的にミスマッチを生みやすくしています。
中小企業にとって、大手と同じように湯水のごとく広告費を使うのは現実的ではありません。だからこそ、「数」を追うのではなく、「確率」を上げる必要があります。
データ活用とは、魔法のような解決策ではありません。自社で定着し、活躍している人材の「事実」に基づいてターゲットを明確にし、「自社に合わない人を採用してしまうリスク」を極限まで下げるための防御策だと捉えてください。

Step 1:社内インタビューから「仮説」を立てる

勘に頼る採用から脱却し、採用にデータを活用するためには、具体的に何から始めればよいでしょうか?中小企業では「そもそも分析できるようなデータが社内にない」という声もあります。

多くの企業が陥る間違いは、会議室に集まって「どんな人が欲しいか?」という“理想のゴール”を話し合ってしまうことです。
「明るい人」「主体性のある人」といった曖昧な言葉で定義しても、それは面接でいくらでも演じられますし、採用担当者の主観によって解釈がブレてしまいます。これではデータ活用のスタートラインに立てません。

理想を話し合うのではなく、何をすべきなのでしょうか?

「社内にいる活躍人材」の行動の共通点を見つけることです。ゴール(欲しい人物像)は、自分たちの頭の中ではなく、すでに働いている社員の行動の中に答えがあります。
そのために、まずは社内で活躍している社員や、長く定着している社員へのインタビューから始めてください。
「なぜこの会社に来たのか?」「入社前に何をしていたか?」「仕事で楽しいと感じる瞬間は?」といった生の声を集めます。こうした生の声を集めていくと、「ウチで活躍する人には、実はこういう行動特性があるのではないか?」という“仮説”が見えてきます。
この仮説こそが、後のアンケート設計や採用基準づくりの土台になります。

Step 2:「意識」ではなく「行動」の差を見つける

社内インタビューで仮説を立てた後、その仮説が正しいのかをどのように確かめていけば良いでしょうか?

全社員、あるいは特定の若手層全員を対象にアンケートを取ります。ここで重要なのは、「活躍している人」と「そうでない人」の両方のデータを取ることです。
統計学で重要なのは「差(ギャップ)」です。
例えば、「今の仕事にやりがいを感じていますか?」と聞いて、全員が「はい」と答えるなら、そのデータは採用基準に使えません。
逆に、「学生時代に部活で部長をしていた」という項目に対して、活躍している人の8割がYESで、そうでない人の8割がNOだとしたら、そこに明確な「差」がありますよね。
このように、意識(思っていること)ではなく、行動(やったこと/事実)で差を見つけることが、解像度の高い採用基準を作る第一歩です。

Step 3:Google式面接で「行動」を見抜く

インタビューやアンケート分析を通じて「活躍する人の行動パターン」が分かってきました。それを実際の面接でどう見抜けばいいのでしょうか?

ここでも重要なのは、面接官の「勘」を排除することです。
ここでも“勘”に頼るのは危険です。Googleが面接で採用している科学的手法が参考になります。ポイントは次の3つです。

手法概要
認知能力数字・言語・論理の基礎力。偽ることは難しい。
構造化面接全候補者に同じ質問、同じ評価基準で採点する。
過去の行動を詳細に聞くことで、再現性のある判断ができる。
例:「あなたが直面した最も困難な課題と、それをどう乗り越えたか具体的に教えてください」
ワークサンプルテスト実際の業務の一部を短時間で体験してもらい、その成果物の質を評価する。これが最も識別力が高いとされる。

「構造化面接」とは具体的にどのような手法ですか?

「構造化面接」とは、あらかじめ評価基準と質問項目を決めておき、全候補者に同じ質問をする方法です。
例えば、先ほどの分析で「自ら課題を見つけて解決した経験」が活躍人材の共通項だと分かったなら、面接では「過去に直面した困難な課題と、それをどう乗り越えたか具体的に教えてください」と聞きます。
ポイントは、「頑張ります」という意気込みではなく、「過去にどういう行動をとったか」という事実を聞き出すことです。過去の行動は、入社後の行動を予測する最も信頼できるデータだからです。

「ワークサンプルテスト」とは?中小企業でも導入できますか?

実際の業務の一部を、短時間で体験してもらう手法です。これが最も入社後の活躍予測(識別力)が高いと言われています。
中小企業でも導入可能です。難しい業務である必要はありません。例えば営業職なら、「弊社の製品資料を5分で読んで、顧客への提案トークを考えてください」という課題を出し、そのアウトプットを評価します。そのアウトプットの質を、事前に設定した基準(論理性、顧客視点など)で評価する。これが、入社後の活躍を予測するデータになります。
「性格検査」や「面接の印象」は、良く見せようと思えば偽れますが、「実際の仕事のパフォーマンス(ワークサンプル)」は嘘をつけません。
仮説(行動要件)→ アンケート(検証) → 面接・テスト(再現性確認)という流れができて初めて、ミスマッチを最小化できます。

Step 4:データ活用を根づかせるには、「使う側」を育てる

ここまでのプロセスであれば、中小企業でも十分着手できそうです。さらに踏み込みたい場合には、どのような取り組みが考えられるでしょうか?

社内データだけでは母数が足りない場合などは、外部データの活用も一案です。
例えば、アンケートモニターを利用して、ターゲット層(学生など)の行動特性を調査することも、今は安価にできます。「ボランティア経験がある人は、当社の文化に合いやすい」という仮説があるなら、実際に学生に調査をして、その層がどこにいるのかを探るわけです。
ただし、マッチする層を見つけること以上に重要な点があります。それは、経営層やマネージャー層が「データを受け入れる姿勢」を持てるかどうかです。

どういうことでしょうか?

せっかく現場がデータを分析を行い「このような行動特性を持つ人材が活躍しています」と示しても、最終決定権を持つ社長が「いや、俺の勘ではこちらの元気な学生が良い」と判断してしまえば、すべて水の泡です。
データ活用を成功させるには、「使う側(意思決定者)」の教育が先決です。
「なんとなく」で決めるのではなく、「データが示しているから、この基準で採用しよう」と意思決定できるか。経営層がこの判断基準を受け入れ、スタイルを変えられるかどうかこそ、組織にデータ活用を根づかせるポイントになります。

データ活用は「防御力」を高める経営戦略

採用が厳しい今の時代、採用数を増やすことは難しくても、“採用の精度を高める”ことはできます。中小企業にこそ必要なのは、「勘と経験」から「事実と再現性」へのアップデートです。
まずは社内の「事実」に目を向けること。そして、意識ではなく「行動」の差に注目すること。限られたリソースで戦う中小企業こそ、データという武器を使って“採用の精度を高める”ことが必要です。
採用におけるデータ活用の出発点は、「手元にデータがあるかどうか」ではなく、「自社にフィットする人材像(ゴール)」を明確にすることにあります。仮説を立て、自らデータを取りに行き、意識ではなく行動に着目する。そして、分析結果を“使える人”を育てていく―このサイクルこそが大切です。
「勘と経験」の限界を感じている方、定量的に考え、行動を変える力を身につけたい企業にとって、DataStalizeはその第一歩となるはずです。
西内啓氏がカリキュラムを考案・監修し、自ら講師も務めるデータ活用人材育成プログラムDataStalizeは、西内氏から、直接「課題設定」や「分析アプローチ」を学べるプログラムです。単なるツールの使い方ではなく、「明日から自社の課題をどう解くか」という実践的な思考プロセスを習得できます。
例えば、アンケートモニターを利用して、ターゲット層(学生など)の行動特性を調査することも、今は安価にできます。「ボランティア経験がある人は、当社の文化に合いやすい」という仮説があるなら、実際に学生に調査をして、その層がどこにいるのかを探るわけです。
ただし、マッチする層を見つけること以上に重要な点があります。それは、経営層やマネージャー層が「データを受け入れる姿勢」を持てるかどうかです。

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